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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)8556号 判決 1968年9月26日

原告

堀次清治

代理人

佐々木哲蔵

外一名

被告

全日本海員組合

右代表者

南波佐間豊

代理人

所沢道夫

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者双方の求める判決

一  原告――(一)被告が原告に対してした昭和四二年六月一五日付の「原告を一年間の全権利停止処分に付する」旨の決定は無効であることを確認する。(二)訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告――主文同旨。

第二当事者間に争いのない事実《省略》

第三争点

第四証拠《いづれも省略》

第五争点に対する判断

一、本件統制処分の効力

(一) 実体面、即ち統制処分事由該当性

被告の主張によれば、原告は中央執行委員会の規約一一九条A項にもとづく裁定と勧告及びその他の組合機関の要求にも拘らず不適法なリコール運動を継続し、しかも昭和四一年八月三日成立した組合長との約束を履行しなかつたから、規約一二〇条A項一、四号に該当し、また原告の提出した不信任理由書および配布した「リコール運動の趣旨」等の内容はいずれも事実無根であつて組合役員を中傷するというべく、規約同条A項四、九号に該当するというにある。よつて以下、順次検討する。

1 統制違反事実の有無

(1) 中央執行委員会の裁定及び勧告に従わなかつたこと

(ⅰ) 原告らのリコール運動と中央執行委員会の見解

前記当事者間に争ない事実中第二、一、三(一)(二)(三)の要旨は次のとおりである。

原告は他の組合員らとともにリコール運動委員会を組織し、その代表責任者であるが、被告の和田副組合長、金子中央執行委員兼汽船部長の免職を規約一一七条の手続により実現すべく(<証拠>によると右両名の任期は同年一〇月に満了すると認められる)まず統制委員会に不信任理由書を提出し、かつ右理由書は同条A項所定の「役員が決められた任務を行なわず、役員として不適格であることの明らかな根拠」を示したものであるとして、リコール一般投票に必要な署名数を獲得するためのリコール運動を展開した。これに対し中央執行委員会は、同年五月一一日、「右リコール請求添附の前記理由書には同条所定のリコール理由たる『決められた任務を行なわず、役員として不適格である』ことの明らかな根拠が示されていないから不適法であり、その中止を求める。」旨の「見解」を公表し当時その旨を原告に通知したのである。

(ⅱ) 右見解は裁定と勧告とに該当するか

規約一一九条A項によれば、中央執行委員会は規約の解釈について疑義が出たとき裁定と勧告とをなし得、組合員はこれに従うべき旨規定されていることは争がない。

前記五月一一日付中央執行委員会の「見解」ならびに証人神沢竜の証言によれば、統制委員長は同年四月一八日中央執行委員会に不信任理由書が提出された旨の報告を行なつたこと、右不信任理由書によれば、同記載の和田、金子両名に関する事項が規約一一七条A項所定の要件に適合していることは自明の理とされているのに対し、中央執行委員会は右条項の解釈上疑義ありとし、その解釈を明確にする必要ありと認め、同日及び同年五月六日開催の会議において合議の結果、中央執行委員会は、「組合機関で論議、方針決定を行ない、組合役員がそれに従つて処理し、その結果につき機関の承認を得た事項、或いは主観的な事由はリコール事由にならない。規約一一七条A項所定の役員のリコール事由は、その役員が規約、或いは組合機関で定められた任務を行なわず、しかも組合役員として不適格であることを要件としていると解釈すべきである。従つて右不信任理由書記載事実は規約所定の要件に該当しない。リコール運動委員会はリコール運動を中止すべきである。」と決定し、右決定を外部に発表する際の文案及び発表自体を常任中央執行委員会に委任し、同委員会は同月一一日中央執行委員会名義で前記「見解」を発表し、数日後中央執行委員会の承認を得たことが認められる。

なお規約一一九条B項が中央執行委員会において規約の解釈上の疑義につき裁定と勧告とをしたときは最近開催の全国評議会に報告しその承認を得べきものと規定していることは争がなく、<証拠>によれば同委員会は前記の見解と措置とにつき同年六月二一日開催の第八三回全国評議会において承認を得たことが認められる。

これらの事実を総合すれば中央執行委員会の右措置は規約一一九条A項に基づく規約解釈上の疑義に関する裁定及び勧告としてなされたものというべく、これをもつて規約に根拠なき単なる見解とみることはできない。

(ⅲ) 右裁定及び勧告権の及ぶ範囲

規約一一九条A項及びB項が第一七章統制の項に入れられていること(このことは当事者間に争いがない。)、および右裁定と勧告とにつき後日全国評議会の承認を経なければならないことにかんがみ、中央執行委員会の裁定及び勧告権については次のように考える。

規約の解釈について組合内に争いが生じ組合統制上看過し得ないような場合に、本条項は規約の解釈権を中央執行委員会にとりあえず与えて、その裁定と勧告とにより混乱を避けようとするものである。しかも規約解釈上の疑義は、組合運動上単に抽象的規範の意義のみに関して生ずるよりもむしろ、組合又は組合員等の具体的な行為に関して生ずるのであるから、規約一一九条にいう裁定と勧告との権限は組合員の具体的な行為が規約の定める要件に適合しているか否かの判断をすることと、組合の統制を維持するため必要な限度で組合員に対し右判断に従い作為又は不作為をなすことを命ずる権限をも含むものである。

中央執行委員会の規約解釈に関する裁定と勧告とは性質上裁量の余地多きものである。この権限を同委員会に与えなおその権限の行使につき全国評議会の承認を必要としたのは団体の自治を尊重し、とくに団体内部の紛議に関しできるだけ国家機関をわづらわさず、自主的に処理しようとする考えにもとづくものである。もとよりこの考え方は結社の自由を保障し労働者の団結権を尊重する等、多元的な社会を前提とする法制度のもとではとくに適切であるからかような権限の行使が司法審査の対象となるとき、中央執行委員会の解釈上の裁量権は尊重さるべく、その行使があきらかに不合理であつて容認し難い場合にのみ右裁定及び勧告の効力は発生せず組合員を拘束するものでないというべきである。

(ⅳ) 裁定と勧告に示されたリコール要件解釈の当否

中央執行委員会は前記のとおり右裁定と勧告とにおいて、規約一一七条A項の「役員が決められた任務を行なわず」ということのなかには組合機関で論議して決定した方針に従つて役員が処理し、その結果につき機関の承認を得たことを含まず、かつリコール請求の実体的要件として「役員が決められた任務を行なわず」と「役員として不適格」との二つを必要とすると解釈した。思うに、労働組合は労働組合法一条五条に示されているとおり労働者が自主的かつ民主的に設立した団体であるから、前記のような組合機関の決定、承認にいたるまで、或いはその決定、承認に際しての役員の意見、態度、行動等に対し組合員が批判することは、それがことさらに事実を歪曲したり、或いは専ら人身攻撃を目的とする等不当なものでない限り、組合の民主化、自主化を図るものというべく、原則としては排斥すべきものではない。しかし反面労働組合がその目的を達成すべく使用者と団体交渉をとげ、必要に応じ争議権を行使するには、まず強固な団結が必要である。特に被告は海上労働者を主体とする労働組合であつて組合員は少人数宛分散して多数の船舶に長期間いわば隔離された状態で乗組んでいるか、又は下船して各家庭で休養中であることは顕著な事実であるから、とくに団結の強化が要請されるのである。したがつて組合員の役員に対する批判が、時期、方法、場所等において組合の統制のため一定の制約を受けることも、また止むを得ない。このことは争議中であると否とで決定的な差を生ずるものではない。よつて右のような役員の態度等を当該役員のリコールの事由として主張し得るか否か、主張し得るとしてもその範囲如何は、元来組合員が規約をまたずして当然には役員に対する罷免請求権を有するものでない以上、一に組合の自治に委ねられているといえるのである。

ところで、以上の見地に立つて考察すれば、規約所定のリコール請求の要件である「その役員が決められた任務を行なわず、役員として不適格であることについて明らかな根拠を示すこと」の趣旨を、中央執行委員会のように「役員がその決められた任務を行なわず(但し役員が機関決定に従つて処理しその結果につき機関の承認を得た場合を含まない。)、しかも役員として不適格であることの明らかな根拠を示すこと」と解釈しても、あきらかに不合理であつて容認しがたいとはいえない。けだし、役員が機関決定に従つて処理し、その結果につき機関の承認を得た事項については機関が全体として責任を負うべく、その責任追究は組合員が全国大会その他の機関において行なえば足り(規約一一八条A項は「全国大会は、みずから発議によつて役員や全国委員会をやめさせる権限をもつ」旨定めていることは当事者間に争いがなく、それによれば、全国大会は何らの理由なくして自由に役員を罷免することができる。)、役員個人を署名及び組合員の一般投票によつてリコールすることは組合統制上好ましくないと解することができるからであり、また役員が決められた任務を行なわずという要件と役員として不適格という要件との関係は、並列的と解することも、択一的と解することも、また前者の例示と解することもでき、いずれをとるも敢て不合理というような点を見出し得ないからである。

もとよりこのように解すれば組合員がリコール請求をなしうる場合が著しく少くなることは否定できない。しかし規約三六条A項B項によれば、中央執行委員等役員は全国大会において選出されその任期は二年であると定められていることは当事者間に争がないから、不適当な役員はこの際排除され得るのである。それ故被告のリコール制度は、当該役員を排除すべき緊急の必要があつて敢て二年の任期満了をまてない場合に適用されるものであるから、要件を厳格に解するも妨げない。またこの制度自体が組合の民主化に貢献する反面、組合の統制に大きな影響を及ぼすものである以上、その適用範囲を狭くする解釈をとつたからとてこれを不合理ということはできない。

(ⅴ) リコール請求は右解釈による要件を充足するか

リコール運動委員会提出の不信任理由書記載の事実は、役員が機関決定に従つて処理し、その結果につき機関の承認を得た事項であるか否かにつき考察する。

<証拠>によれば、昭和四〇年一〇月に開催された被告の全国大会は必要に応じストライキをもつて賃上げ斗争を行なう旨の方針を決定し、その後被告は使用者たる外航、内航の各海運会社との間で団体交渉を行なつたが不調に終つたので、被告は汽船部に属する組合員の一般投票を施行した結果、ストライキを実施することならびにストライキの実施方法および終結については中央執行委員会に一任するとの表決があつたこと、そこで中央執行委員会はストライキの方法、戦術、指導については、同委員会自ら討議決定指令し、争議の具体的、技術的な問題については、中央執行委員会の中に設置された企画委員会(委員長は和田副組合長)をして処理に当らせたこと、また金子汽船部長は汽船部所属の組合員のため、汽船関係の使用者との団体交渉の責任者としてこれに当り、船舶乗組員の定員、労働時間、食料の現物支給、及び賃金に関する労働協約を締結する運びとなつたが、右協約締結については中央執行委員会はもとより、規約五八条ないし六〇条、六二条に定める全国大会の分科会議である汽船部全国委員会にかわる汽船部委員会の承認を得たこと、以上の団体交渉、ストライキ、労働協約の締結につき被告の最高意思決定機関である全国大会が承認を与えたこと、そして、被告がその運動方針を定め全労会議及び同盟に加盟しこれに金員を支出したのは被告の全国大会ならびにそれから権限を委譲された全国評議会の各決定にもとづくものであり、また、被告が民社党を支持し、同党等の選挙資金等のため被告の資金を支出したのは、全国大会の決定にもとづくものであることがいずれも認められる。

従つてリコール運動委員会の掲げている不信任理由中、和田副組合長の態度が役員として不適格であるとの点および金子汽船部長の態度がごうまんんで、かつ日常生活も組合幹部にふさわしくないとの点を除く部分は、いずれも和田副組合長、或いは金子汽船部長が組合機関の決定にいたるまでとつた言動及び組合機関の委任を受けて処理に当り、その後組合関係の承認を得た事項に対する批判に帰着する。それ故この部分は規約一一七条A項所定のリコールの要件中、「役員が決められた任務を行なわ」なかつたことに該当せず、その他右不信任理由書中右要件に該当する部分はないから、原告を代表責任者とするリコール運動委員会のリコール請求はいずれも規約の要件を充足していないといわざるを得ない。

(ⅵ) 勧告及び要求

かような不適法なリコール請求にもとづき和田、金子両役員のリコール署名を募り、署名簿を提出することは、被告の統制を維持するため容認できないから、中央執行委員会の中止勧告は正当であつたというべきである。

中央執行委員会の右裁定及び勧告に関し被告の組合長及び組織部長らもまたリコール運動の中止等をリコール運動委員会に要求したことは前記第二、三(二)(四)(七)記載のとおりであつて、右はいずれも中央執行委員会の右裁定及び勧告実現のため組合役員としてとつた措置というべきである。

(ⅶ) 右裁定及び勧告に対する原告の態度

これらの裁定、勧告、措置に対しリコール運動委員会を構成する原告ほか数名の組合員のとつた態度は、前記第二、三(三)(四)(五)記載のとおりであり、また<証拠>によれば、原告は昭和四一年九月一〇日集つたリコール署名簿を統制委員会に提出し規約に従つて処理するよう要求したが、拒否されたことが認められる。

要するにリコール運動委員会の代表責任者たる原告は中央執行委員会の裁定及び中止勧告に従わず、リコールの署名を募り、リコール運動の正当性を組合員に宣伝し、中途で署名募集だけを中止したがリコール運動そのものは中止せず署名簿の提出に及んだのである。

(2) 八月一三日成立の約束を履行しなかつたこと

<証拠>によれば、リコール運動委員会の運営は、同年夏当時代表責任者たる原告が乗船中であつたので、大竹広、篠原国雄、池田繁已、上田徹らに委ねられていたこと、しかも、原告はリコール運動委員会と被告との間のリコールに関する紛議の収拾のため右大竹らが組合長と協議し合意を結ぶことについて同人らに一切の権限を委任していたこと、ここにおいて右大竹らはこの授権にもとづき中地組合長と同年七日、同月二一日、同年八月一三日の三回にわたり右事態収拾につき協議をとげた結果、同月一三日にいたり大竹、池田および篠原は組合長に対し、(イ)組合の機関決定を尊重して同日付でリコール運動委員会を解散しこの運動をやめること、(ロ)二、三日中にその旨の声明を発表すること、(ハ)リコール運動委員会の構成員の氏名を文書で回答することを約したことが認められ、<証拠判断省略>。

以上の事実によれば、同年八月一三日の大竹らと組合長との約束は原告にもその効力を及ぼすのである。

右約束のうちリコール運動をやめるとの趣旨は、前記のようにリコール運動委員会がすでに同年六月一六日署名募集を一時中止すると声明したこと等にかんがみ、リコール署名の募集活動をやめる趣旨のみでなく、リコール請求をもしない趣旨であると解されるところ、前記争ない事実(第二、三(ハ))によればリコール運動委員会は同月二〇日、リコール請求をする場合のある旨声明したのみならず、原告は前示のとおり同年九月一〇日リコール署名簿を統制委員会に提出した。また前記争ない事実によれば、リコール運動委員会の代表責任者は原告である旨を文書で回答したにとどまり、その他の構成員の氏名を明示しなかつた。さらに、その会談の際には組合長がリコール運動委員会側に何らかの約束をしたことは認められないのであるが、前記争ない事実によれば、同委員会は、組合長が組合員の組合に対する不信の存在を認め、その意思を尊重して、今後の組合運動に生かしていくことを表明した旨、虚偽の事実を報道したのである。

要するにリコール運動委員会の代表責任者たる原告は組合長との間に成立した合意に反してリコール運動を続行したのみならず、右委員会の構成員の氏名を明らかにせず、合意の趣旨と異る解散声明を発表し、その中で組合長の言動につき虚偽の報道をしたという外はない。

(3) 組合役員を中傷したこと

当事者間に争のない前記第二、三(一)の事実によれば、原告は統制委員会に不信任理由書を提出し、かつ組合員に「海員組合幹部リコール運動の趣旨(案)」および「海員組合幹部リコール運動の趣旨」並びに「海員組合幹部リコール署名簿(不信任理由書)」なる文書を配布し、和田及び金子両名の組合幹部としての行動に非難を加えたのである。

ところで、被告の主張によると、原告が加えた非難はすべて事実無根であるから組合役員を中傷するものであるというにある。

そこで案ずるに、規約一一七条A項が役員のリコールにはリコール事由の「明らかな根拠」を示すことを要求している趣旨は、役員がいかなる具体的な事実によつてリコールを求められているかを明確にすることにより、一方においてはリコールを受けようとする役員に弁明の機会を与え、他方その当否につき判断する組合員に便宜を供し、もつて組合内の無用の混乱を避けようとするにあると解せられるのである。よつて役員をリコールしようとする組合員はリコール事由として具体的な事実をとりあげて主張しなければならないが、リコール請求は必然的に組合役員に対する批判を内容とする以上、それが事実をことさらに歪曲し、或いはリコール運動に名を籍りて役員を誹謗する目的を帯びれば格別、単に批判の範囲にとどまる限りそれについて問責するのは相当でない。ところで原告がことさらに事実を歪曲したり、或いはリコールに名を籍りて役員を誹謗することを目的としたとは認める証拠もなく、原告の前示非難は和田、金子両名に対する批判の域を出ないから、原告が右両名を中傷したとはいえない。

2 規約の適用

(1) 適条

前記のように原告がリコール運動委員会の代表責任者として中央執行委員会の裁定と勧告とに従わなかつた所為は、当事者間に争のない規約一八条B項四号、一一九条A項に定める服従義務を果さなかつた点で前記規約一二〇条A項一号にいう規約に反する悪質な行為に該当する。またこの裁定と勧告に従わず組合役員のリコール運動という組合の統制上重大な措置を推進したことは同項四号にいう反組織的な行動に該当する。

原告が中地組合長との前記約束を果さず、しかも同組合長が原告の意思を尊重して組合を運営したいと言明した旨組合員に虚偽の事実を宣伝した点は、同項四号にいう反組織的な行動に該当する。

(2) 情状

ところで原告の統制違反の情状を見るに、原告が中央執行委員会の裁定と勧告及び組合長との約束に従わずリコール運動を続行したことは、組合統制上極めて重大事であつてそれ自体厳しい非難を受けなければならない。しかし前記のごとく、リコールの要件が規約上さほど明確でなかつたこと、原告は右裁定及び勧告の承認等を審議する全国評議会の開かれる前に署名活動を中止したこと、原告が結局リコール署名簿を統制委員会に提出したのが中央執行委員会の告発の数日後であつたことをみれば、これと無関係であるとは認め難いことなどの事実は、原告に対し有利に考慮さるべきである。

組合長が言明しなかつたことを言明したように虚偽の報道をした点も組織上無用の誤解混乱を招くものであるが、しかし<証拠>を綜合すれば、中央執行委員会はこれよりさき、「このようなリコール運動が発生したこと自体から推して組合員間に不満のあることが認められるのでそれの解消のため努力する。」旨を公表していることが認められるのであつて、言明したとする内容自体は組合の方針に反するものではない。

原告の所為中、リコール運動委員会の代表責任者でありながらリコール運動に関する裁定と勧告に従わなかつたことは最も重視さるべきである。なお権利停止処分を受けた者は、当事者間に争のない規約一六条A項によれば、不完全資格組合員とされ、同じく規約四八条A項四号B項一、二号によれば全国委員の資格を失うか停止されるのであり、また<証拠>によれば、かかる者は組合から長年組合員であつた者に支給される功労給付を受けるにつき権利停止処分以前の組合員経歴期間を算入されないことが認められる。

元来統制違反をした組合員に対し、いかなる処分を科するかは、それが著しく苛酷であつて、社会通念上からして到底これを是認することができないような特別な場合を除けば、組合の自治に委ねられていると解するのが相当であるところ、前記のような事情のもとでは原告に科された全権利一年間停止の統制処分が著しく苛酷であつて社会通念上容認しがたいものとはいい得ないのである。被告の掲げた統制処分事由のうち当裁判所の採用しないものがあるとの点も、原告が前記裁定と勧告とに従わなかつたことを最も重視する限り、右結論を左右しない。

(一) 手続面、即ち統制処分手続の適法性

1 統制委員会

原告は統制委員会の調査審問および勧告に、原告を告発した中央執行委員会の構成員が関与したことをとらえ、右規約一二二条B項にいう統制委員会が組合のどの機関からも独立してその任務を行なうことに違反し、統制委員会をして中央執行委員会に従属させたものであつて、その後の手続を無効ならしめるものと主張する。

そこで案ずるに、原告を統制違反被疑者として統制委員会に告発した中央執行委員会の構成員中六名が、統制委員会の構成員として本件統制違反事件について調査審問し、勧告をしたことは当事者間に争がない。

国家がその構成員に対し統制処分ともいうべき刑事処分を行なうに当り、告発機関又は訴追機関と審判機関との各構成員の重複を禁止することは近時一般的に承認された原理というべきである。しかし、この原理が国家以外の各種団体即ち社団、財団、組合等にも直ちに妥当するとはいい難いところであつて、かかる重複を禁ずることは望ましいこととはいえこれを採用するか否かはひとえに各種団体の自治に委ねられていると解すべきである。

ところで当事者間に争のない規約一二二条D項によると統制委員会の構成員一三名中六名は中央執行委員を兼任することが認められているから、規約自体両機関の構成員の重複を許容しているというの外はない。しかも当事者間に争がない規約一二三条A項によれば統制委員会は告発がないときでも、統制違反事件について査問を開始することができるのであるから、告発は査問開始の要件でなく、実質的にも両機関の構成員の重複を禁止する必要はない。

当事者間に争のない規約一二二条B項にいう「統制委員会は、組合のどの機関からも独立して、その任務を行なう」との趣旨は、統制違反事件について事実の調査とそれに基づく処分の勧告を行なう統制委員会は、他の組合機関との間に上命下服関係に立つものでないことを明らかにし、査問、勧告手続の公平とそれによる事実認定および勧告する処分の適正化を図ろうとするものと解されるところであるから、中央執行委員会より本件統制処分に関する査問ないしは勧告について何らかの通達、命令等がなされた旨を証明するに足りる証拠がなく、規約自体が両機関の構成員の重複を許容している以上、単に中央執行委員会の構成員が統制委員会の構成員を兼ねたからといつて、前記条項に反すると解することはできない。

そうしてみると、この点に関する原告の主張は理由がない。

2 全国評議会

原告は、本件統制処分を決定した全国評議会の構成員六五名中三〇名は原告を告発した中央執行委員会の構成員であるから、かくの如きは訴追機関と審判機関とを混同し、規約一二五条A項にいう事件の当事者である者は、その審議決定に、参加できないとの規定に違反すると主張する。

そこで案ずるに、全国評議会は規約五四条により組合長一名、副組合長二名、中央執行委員二七名、全国常任委員三五名から成るところ、昭和四二年六月一三、一四日開催された第八七回全国評議会には組合長、副組合長、中央執行委員即ち中央執行委員会の構成員全員(和田金子を含む)出席の上、無記名投票の結果有効投票総数六四票中、賛成四五、反対一九票で原告に対する本件統制処分を決定したことは当事者間に争いがない。

ところで当事者間に争のない規約一二五条A項にいう「事件の当事者」とは、当事者間に争いのない同条B項の「事件の当事者が希望した場合は、会議の席上で、処分の決定に先立つて、弁解する機会が与えられる。」との規定と対比しても、統制違反被疑者を示すものであることは明らかであるから、告発機関の構成員は事件の当事者でなく、これが統制違反事件に関する全国評議会の審議表決に関与できないと解さねばならない根拠はない。かえつて、前述の如く統制委員会は自ら統制違反事実を知つたときは告発をまたず査問を開始することができ、しかも統制委員会の構成員たる中央執行委員は、統制処分を決定する全国評議会の構成員ともなるものであつて、かかることは同規約の予想しているところであると解される。

また、<証拠>によると、被告において、従来統制違反事件は支部機関からなされるのが殆んどであつたが、その支部機関の長が全国評議会に参加して、その処分決定に関与した例も少くなかつたことが認められ、この事実は右判断を裏付けるものである。

よつて、原告のこの点の主張も失当である。

(三) 統制権濫用

本件統制処分は前示のとおり実体面手続面ともに適法に行なわれたものであり、これが原告主張のように統制権の濫用に該当するといえないことは上来の説示から明白である。

二、結論

以上説明のとおりであるから、原告は本件口頭弁論終結時たる昭和四三年五月七日現在規約一六条にいう不完全資格組合員であるというべきである。

してみると、原告が完全資格組合員であるとの確認を求める趣旨で本件統制処分の無効確認を求める原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(沖野茂 宮本増 田中康久)

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